羊雲/七
わたしたちは歩く
可笑しなことはないのに
となりできみが時々ちいさく笑う
(なにか間違っている?)
でも訊くことなんかできない
わたしたちは黙って歩く
おおむねすべてのひとたちは
無言のまま歩いていく
内心怒っているかもしれず
悲しみに暮れているいるかもしれず
思考で溢れているのかもしれないけれど
なにも言わないでいる
なのでわたしたちはこのまま
言葉のないまま歩けばいい
きみは時々笑う
地下鉄の駅を三つくらいは過ぎて
人通りが少なくなると
黙っているのがちょっと
不自然な感じになってきて
きみは笑っていない
それが良いことなのか
良くないのか
どちらもあり得るなと考えていると
きみは急に立ちどまって空を見上げた
ふたりで見上げた空には
羊雲しかなかった
羊雲はいつまでもじっとしていた
どれくらい経過しただろう
きみの手を握った
(なにか間違っている?)
きみが小さく笑った
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