薄明の中で(九)/朧月夜
 
「お前は、クロノゴロスという言葉を知っているか?」
「クロノゴロス? それは、何を意味しているのでしょうか?」
「人間は人間の力だけで生きていける、という主張だ。
 このクールラントでも、最近になってそんな考え方が跋扈している」

「それは危険ですね。国家は常に総体としてあるものです。
 個人が世界の行方を左右するなど、あってはならないことです」
「しかし、それが事実なのだ。エインスベル派は、
 己自身の力によって、世界を切り開いて行けると信じている」

「……まさに、魔女ですな。しかし、個人など、国の裁きによって、何とでもなるでしょう?」
「それだ。わたしは、世界の覇者になることを恐れている」
「そんなことは、初めて聞きました。あなたらしくもない……」

「ははは。わたしはそれほど自信過剰ではないのだよ、フランキス。
 わたしは、今のクールラントを慈しんでいる。そこで、一つ頼みがある。フランキス」
「それは、内密に頼まなければいけない事柄なのですか?」フランキスは慎重に尋ねた。
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