繭/妻咲邦香
彼女はその猫を抱き上げた
細く鋭い雨のあがった夜
取り返しのつかない過ちと連れ立つかのように
もっとか弱い存在を呼び寄せたのかもしれない
こんな筈ではなかったと訝しみながらも、私は眠りについてしまった
一つ隣りの質問に誤って解答を記したらしい
全てが一行ずれてしまった
本来ならば全問正解
おかげで目覚めて初めて見る世界は、思っていたものとかなり違った
だが同じ部分も多い
私は美しく生まれ変わる予定ではなかった
ずっと夢を見たかった
ずっと夢でいたかった
知らない誰かの知らない記憶の中で、永遠に
日を跨ぐ必要なんて無いといいと、思っていた
私を讃え、敬うのは、不誠実な果実を抱えた者ばかり
私はその者らの枝に捕まり、自らを閉じ込める糸を吐く
私を
正解から
逃さないための
糸
彼女はその猫を抱き上げた
痩せこけた月の消えそうな夜
猫は彼女の柔らかな腕の中で眠っている
解明などされなくともよい謎に
包まれながら
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