パスタおばちゃん/soft_machine
しばりきれないふろしき一杯に
トマトをかかえておばちゃんがきた
やぶれ帽子に山百合さして
足ばやなかげろうに浮かぶ
伸びたり縮んだり
風をいれなと
ドライ・シェリーをかっぽり注ぐうしろ姿は
おばちゃんのものだ
飲みほすようにプリンをお皿から消す口も
やっぱりおばちゃんだ
おばちゃんのパスタの仕上がりまでの
経過の大部分が
油に酔ったよろこびにはじまって
パスタを作らないために
パスタを作りに来たような
おしゃべりソースでたっぷり
どんなにお腹が泣いたって
誰も近づけやしない
たらたたらん
いつの間にかほんのり曲がった人さしゆびが
きざむフォー・ビート
おばちゃんのパスタはいつまでも出来ない
塩がらい泡がはじけ
トマトはくたびれ鍋いっぱい麺おどる
けれどおばちゃんは歯をくいしばって
時間をまっている
じっと泡を見つめ
よくない島をかきまぜ
ゆっくりひかりを手にかけた
それはもう一度の別れ
おばちゃんが倒れ
朝がくるまで
パスタは出来ない
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