蠅の王が見ている/ホロウ・シカエルボク
 

細胞たちの悲鳴が渦を巻く目覚め、始まりの光度はいつだってキツ過ぎる、身体を起こすたびに、眠っている間に降り積もったものたちが行方不明になる、そいつらがいつ、どんな瞬間に姿をくらますのかわかったためしがない、拳くらいの大きさの蠅が窓ガラス越しにこちらを睨んでいる、俺は唾を吐きかける、窓ガラスが汚れ、蠅は、マフラーをいじったバイクみたいな下品な羽音を立てて飛び去って行く、おそらくは、すぐ近くで霧のようにきえてしまうのだろう、顔を洗い、ガスコンロで湯を沸かす、インスタントコーヒーは切れそうになっている、抗アレルギー剤を飲み込んで浸透するのを待つ、梅雨の始まり、往生際の悪い女のように湿気が居座っている
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