蚊/服部 剛
ぶーん
と、軽やかに宙を舞う
一匹の蚊よ
命がけで人の血を吸う
機会を狙うお前よ
逃げなさい
大きな黒い手の影が
生きることと背中合わせの
お前をいつも追っている
早く逃げなさい
小さなお前に憐みの目を注(そそ)ぐ私の
この手さえ
ひと度肌に着地すれば
お前をぺしゃり、と
やるだろう
あの頃会社で、つぶれちまった
拉(ひしゃ)げた姿の私のように
だから もし
この詩を読んでいる
世界にたった一人のあなたが
つぶれてしまいそうならば
あの隠れ家へ
一刻も早く、逃げなさい
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