特等席/凪目
 
レールを削って進む走行音
30年くらい聞いてる
どっかで犬が吠えてる
カラスが帰るってさ
僕はもう帰ってる
もうこれ以上帰れないとこに
そこにはソファがある
いいでしょ
軽くて柔らかくて、適度に沈み込める
これは君のためのソファ
あなたはそれを好きに扱える
気に入らなけりゃ通り過ぎればいいし
素材が気になるなら分解してもいいよ
鬱憤が溜まったらめちゃくちゃにしてみてもいい
信じられないくらいうんと丁寧に扱ってもいいね
そいつは君が座るのを心待ちにして
そのためだけに存在してる
決してあなたを裏切らない
今までもこれからも
ソファはあなたを拒まない、絶対に
ところが僕はと言えば
こいつよりずっと固くて、うるさくて
君をひどい目に遭わせるし、おまけに生臭い
きっと目障りだろうな
なのに疎ましいものを退けようとすると
ソファまで一緒になって消える
僕とソファは切り離せない
そういうしくみになってる
最高に笑える
心の底から同情してるよ
僕は天使じゃない
地獄にならもう落ちてる
下敷きになって削られ続けてる
戻る   Point(1)