春/津煙保存
 

君が揺れている


君の声が聞こえるよ



でも言葉にしない


ふふ  

ふふふ


春と
呼んでいるんだ


きらきら

光に舞う

ちいさな虫たちがちらちら

瞬きする間に

生まれてくる


はじめましてと

挨拶をする

そっけないふりして

駆け出していく

あの猫の見知らぬ

後ろ姿を見つめて

通り過ぎる風に

小さく振り返り


誰もいない

路傍に咲いていた


列車が走る

音が鳴っていて

日の陰る穏やかさに任せて


朽ちた板切れは

空を切って

一日中


大きな車輪が

やってきた

掛け声がして

合図を出して


向かいの家の

レースを纏う白猫

見つめる


ふふ

ふふふ


ふふん



もう

すべてを失ってもいいね




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