可愛い女の子たち/幽霊
 
男はデジタル時計を、女はアナログ時計を手首に巻いていた。
 遠くでリュックサックを背負ったサラリーマンの男が走っていた。形振り構わず、靴紐が解けたまま走っている。
 そうしてまったく気味の悪いほど定時に電車は姿を現す。時間を合わせたサラリーマンの二人が乗り込み、カップルは口論を続けながら乗り込む。リュックサックを背負ったサラリーマンが駆け込んでくる。しかし一歩間に合わなかった、笛の音と共に扉は目の前で閉まった。扉の外でリュックサックを背負ったサラリーマンの顔は、早送りした花の萎む様子みたいであり、音のないため息が聞こえた。
 すると扉は開いた。車掌のアナウンスでは、「体調の優れない乗客の方がいらっしゃるので、大変申し訳ありませんがもう少々お待ちください」とのことだった。リュックサックを背負ったサラリーマンはなぜか意外にも取り澄ました顔で電車に乗り込んだ。
 乗客はみんな違う方向を向いていた。会社に遅れるという報告を電話でしている女がいたり、舌打ちをする男もいた。ランドセルを背負った女の子たちは、手を使った遊びをして笑っていた。そうして救急車のサイレンが近付いてきた。
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