昔の幻/番田
昔僕はパリで、運河の上に浮かんでいるドミトリーに泊まっていた。あれは何年前だっただろうか‥。僕は勤めていた会社が潰れて、そういうこともあって、気分転換で欧州を巡っていた。6万と、格安な航空券をネットで手配した僕は、その確約メールを日本橋で見ていたものだった。あるいは、電話をHISからもらったのかもしれなかった‥。そして、僕は大きめのトランクを手配して、それを持ってある春の日にドアを開けた。朝5時、なぜなのかは知らないのだが、出張に行くであろう男と、偶然同じエレベーターに居合わせたことをよく覚えている‥。僕は、朝もやの中を駅へと歩いた。
パリに着いた僕のトランクは石畳の道で、一瞬にして
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