立春/ちぇりこ。
 
何もかもが
ゆるされていくような
冬のおわりの鍵穴を覗くと
幼い春が
喃語でつかまり立ち
(あ、ぶぅ。)
ひらかれてゆく胸のうちでは
とても鼻のきく仔犬が
雨をより分ける

雨上がり
土から生まれた子どもたちが
にょきにょきと遊んでいる
泥だらけの腕を
あんまりぐるぐる回すもんだから
腕がすっぽり抜けて
わたしの靴に当たってしまった
くちゃ、と踏んづけた感触が
少し嫌だったので
帰りにスーパーで春の名のついた
魚を一尾買って帰った
腹を捌くと
少しだけ
雨と、冬の匂いのする

ぐったりと
光を失う魚の眼のかわりに
水分をいっぱいに含んだ
わたしは
春になるしかなかった

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