桜の蕾を手のひらにのせて/服部 剛
 
よく晴れた昼過ぎ
満開の桜の木陰にすいよせられて
黒い幹に凭(もた)れ腰を下ろしていた

桜の花々は音もなく風にざわつき
ふと 辺りを見わたすと
桜の蕾等(つぼみら)が
強い春風に細い枝ごと折られ
土の上に落ちていた

今朝、お婆さん達を乗せた車で
老人ホームの門に入った時
枝々にあふれる薄桃色の花びらを風に揺らし
諸手(もろて)をあげた表情で
私達を出迎えてくれた桜よ 

家に篭(こも)っていたお婆さん達が口々に
「まぁ綺麗・・・!」と瞳を輝かせ
萎(しぼ)んでいた頬をほころばせ
共に乗っていた若い僕の胸をも
薄桃色の想いに満たしてくれた桜よ 


やがて風に散り 
宙に舞う桜の流れは
川の水面(みなも)に浮く


土の上に身を伏せた
細枝にうつむく蕾等を僕は拾い
手のひらにのせて
水を入れた小さい器に生けようと
静かな部屋へつれてゆく





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