転勤/やまうちあつし
 
転勤が決まったという。何処へ、と尋ねると別の星だという。夕暮れの河原に人影はなく、二人のために飾られた絵画のようであった。たまには戻って来られるのか、とか、いつまでの予定で、という私の質問に対し、こちらに戻ることはないだろう。短期的にも長期的にも。とにべもない。
手紙やメールくらいできるだろう。今ではオンラインで顔を合わせることだって珍しくない。そう食い下がる私に、その人は大きく息を吸い込んで、決定的なことを言う。あちらに行けば、こちらでの記憶はなくしてしまうことになる。そういう種類の転勤なんだ。だから帰って来られないし、万が一戻ることがあるとしてもまったくの別人として、異郷を訪れる形になるはず
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