仮面/朝雪
もう僕はよそへは行かないから帰っておいでと
ただそのひとことが聞きたかった
彼岸へすこし渡る その前にひるめしを食べよう
あなたはそう云ったので
わたしはピアスをして電車に乗りフォークをとった
やせてきれいになったとほめてくれて
あなたは彼岸へのおそれを口にしない
勇敢でたのしいこいびとだった
だけど あなた
わたしも彼岸へはひととき往っていたのです
そう云って仮面を取ったわたしの素顔に
あなたは絶叫してしまった
まひるのあかるい店のいぎりす風の紅茶の席で
あなたは絶叫してしまったのだった
あなたはその日 彼岸への切符を受け取ったが
結局渡らなかった
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