秋の物語/塔野夏子
 
澄んだ秋のむこうに
傾いてゆくやわらかな光があり
時折 小さな風がうごき

耳はおのずから澄まされてゆく
この秋の虚ろをよぎる
ひそかな呟きのようなものに

それはひくく何かを語っているようで
けれどその言葉は聞きとれず
しかし不思議に心地よい韻律を帯びて

語られるそれは
きっと物語
始まりも終わりもない

いやきっと常に
始まりも終わりも内包しながら
めぐりめぐる物語

澄まされた耳はそれを聴く
虔(つつま)しく やがてなかばうっとりと
聴いているそのうちに

やわらかな光は遠く傾き
小さな風がうごいてゆく彼方で
かすかに 虹がそよぐ

 
戻る   Point(3)