ただおそれてる/凍湖(とおこ)
 
もの言えば唇寒し秋の風
というのは芭蕉の句
けれど、秋の風の吹きやんだことがあっただろうか
なんだかずっと暴風雨のなかにいるようで

誰もが服の下に
生々しく湯気の立つような
肉の腐った臭いのするような
そういう膿んだ箇所を抱え

短を言ったわけでもないのに
カマイタチのように
思わぬ角度でひとを鋭く抉り
それをまたひとはほほえんで隠している

見えないカマイタチがあちこちで発生し
膿が飛び散り
腹から臓物がこぼれ
黙々とそれを拾い集めて
どこもかしこもぴんぴんとすこやかなように
美しく清潔な洋服を着て装うひと、びと

わたしが裂き、そして裂かれた
気づかぬうちに

だれにも謝ることができず、また謝られない
プライドだろうか
いや
ただおそれてる
それがなんであろうと
この口をひらけば
またカマイタチの発生することを

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