夢/妻咲邦香
 
いつか夢が陽炎を連れて
私の家にやって来る
いつか名前が欲しくなって
夢は私におねだりする
良き日々に良き友達
暦の言葉もまた良くて
お天気だけがまだ揃わずに
飛ばした胞子が遠い町の駅の階段に腰掛ける
あそこにいるあの娘のお弁当
中身を当ててごらん

夢は郵便配達のバイクに乗って
生意気な口も利くようになった
食べた後の空のお弁当箱
はじめて洗ったその日から
そして始まる長い道程
トンネルよりも蛇よりも
それはそれは長い時間と
生きる理由で
平和が少し要らなくなった

良きお昼寝に良き噂
漬け物石にもちょうど良くて
いつか町は海に沈み
いつか橋は取り壊されて
歌の切れ端に上手く乗った蜘蛛の子
私のことも誰かに話してよ
次の町に着いたらね
何処にでもいるよ、こんな子
何処にでもいるから大事にしてあげて
その子のこと

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