記憶の棘/石田とわ
 



    
       傘を見たものは言う

       尖っているやつだね
       いや、丸かった
       いやいや、三角だった
       短くなかったか
       もっと長かっただろう
       黒いやつだね
       赤かったよ

       どれもが真実であるがゆえ
       世の中に真実はひとつもない

       記憶は日々頭のなかで改ざんされ
       塗り替えられてゆく
       正しさを、真実を求め
       迷路にはまり棘をさす

       あぁ、目を閉じて
       この雨に流してしまおう
       正しさも真実も、
       記憶さえも







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