ピンセット/妻咲邦香
 
夜の真ん中で
じっと声を押し殺す
耳をそば立て聞いている
今夜も誰かが星になる
今夜も何かが旅に出る

君は部屋の真ん中で
指に刺さったトゲを見ている
無数の誰かが屋根で踊る
無数の答えが窓を叩く

背中を丸めて
他に何も見ないで
ひとつ抜いてはまたひとつ
ふたつ抜いてはまたみっつ
世界は夢だと教えられ
痛みも幻だと諭され
それでも君は抜くのだろう
終わってしまうのを恐れるように
次のトゲを探すのだろう

折れない心が一番悲しいと
知ってしまったからには
まだピンセットの先に降り積もる
綿毛のような厚い雲
それでもトゲを抜くのだろう
雨が止んでも
鳥が目覚めても
君はトゲを探し続けるのだろう

瞼を閉じる音がする
再び開く音がする
何よりも大きな音だ
二人は夜の真ん中にいる
僕だけそこから少しずれている

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