碑/凪目
その秋、ユレは泣かなかった
毎日、悔しさに、哀しみに、怒りに、高揚に、ユレの心は動いた
夜だった
寝室に忍び込んだ、はやるユレにうながされ
私たちは
真っ暗なコスモス畑を走った
林の奥に
おばあさんだかおじいさんだかわからない
老人の住む小屋があって
ユレは熱心に、魔法を帯びたがった
私は老魔術師をにくんでいて
ユレを叱りつけたかった
ユレの目は現在の深いところ、時間の向こうの広い影、明るい闇溜まりにいて
私の目は、記憶と肉の運動とに、余りなくそそがれていて
私たちは怖くなかった
ひとつのまじない
ひとつの約束が
餞別となり
ユレは冬の訪れる前に、言葉を風に帰した
私は春の終わりになっても、姿を海の先に探した
呪いは今でも有効だった
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