灰燼から這い出る/幽霊
 
さて、読者のあなた。私は筆者です。これから主人公が遠い眠りから目を覚まします。そこで私は扉を開けておきました。そうでもしなければ主人公の彼は、素晴らしい外に出ることはないでしょうから。彼は引きこもりです。
 ある町にぽつんと、小さな山があります。その小さな山に寄り添う一軒のアパートもまた孤児のようです。彼の部屋には、その小さな山のせいでしょうか、夏にはよく虫が姿を見せます。ムカデに蜘蛛、そしてゴキブリ。彼は病的にゴキブリを嫌いました。
 彼の部屋には怠惰な朝に捨て損ねたゴミ袋が放られています。そのゴミ袋をゴキブリが這いずる音は彼の鼓膜に録音されて消えません。ポストの中には期限切れの請求書と、思
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