くしゃり/◇レキ
その蝉の抜け殻は取り残された
中身は出ていったとき
羽が開ききらないまま乾き
飛べずに地面に落ちて死んで
腐りかけた頃、蟻に運ばれていった
抜け殻は土にいた頃のあやまちを数えながら
今はただ黙って世間を聞いている
中身も無いしピクリとも動けないけれど
心も空っぽなので
体には乾いた風が快く流れた
抜け殻はよく晴れた昼間
雄の蝉が鳴いたり
雌の蝉が待ったりするのを眺めながら
自分がその一員であるような気分になったり
誰もいない雨の日の夜
湿気で少し柔らかくなって
生きているような気分になったりした
ある日足が一本ポッキリ折れて
抜け殻は地面に落ちて転がって
誰かに踏まれてくしゃりとだけ言った
戻る 編 削 Point(2)