悲しみのない自由な空/愛心
 

挨拶を交わし、お互いに会釈すると、その拍子にお兄さんのスラックスからしゅるりとしっぽが飛び出した。

お兄さんが慌ててしまいこむ。

なんでもないですよ、と、愛想笑いをすると、何故か謝られた。

そうだ、なんでもない。

大家さんの頭には角が生えてるし、走る小学生からは蹄が鳴っている。

オバサンたちは超音波で井戸端会議。女子高生が牙を磨いていた。

世界規模のパンデミックが起きて、早50年。

私たちは生きやすいように、動物に進化しただけなんだから。

人間の皮を被った私たちは、今日も日常に溶け込んでいく。










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