ワクチンの詩/妻咲邦香
私の家だと思っていたものは
貴方の家でもありました
「お帰り」と聞こえた気がして
戸を開けて目にしたものは
みんな知っているものばかり
なのに
みんな
私を初めて見るような目をしてた
ずっと一緒にいました
大切な人でした
笑った時の目尻の皺が大好きで
知らない世界を惜し気もなく見せてくれた
私は貴方になれるのでしょうか?
少しの痛みで済むのなら
なってみたいとも思えて来て
それでもまだ怯えているんです
それでもきっと
明日は大丈夫だと
言いたいのです
幾つか夢もあったけど
全部置いて来ましたし
ひとりでも寂しくはなかった
けれど寂しさを覚えるために今
「ただいま」と小声で言いました
聞こえたでしょうか?
次の言葉を
待っています
戻る 編 削 Point(3)