すすき野原で見た狐/板谷みきょう
者は皆すっかりと騙されておりました。
ある日、「のぅ、与一さ。居るかいのぅ。おやっ、誰も居らん。」
与一を訪れた村人が、社のすみに、何やら大切そうにしまわれている包みを見付けました。
「与一の死体が、すすき野原で見付かったって言うでねぇか。社からは狐の尻尾が見付かったって…。そういや、あの与一の尻の傷は尻尾を切った跡に違いない。最近、めっきりと、すすき野原の狐の姿が見えないと思ったら、そんなにしてまでわしらを騙すとは…。」
「おうおう。聞いた、聞いた。わしらを騙すために、与一を、殺したんだってな。ひでえことをするもんだ。すすき野原のいたずら狐め。」
――浄玻璃の鏡に映し出された狐の生涯に、閻魔は有無も言わさず、たちどころのうちに、狐を地獄へ真っ逆さまに落としたのでした。
ところで、鏡には映し出されませんでしたが、騙されていたやり場のない怒りで、村人に荒らされ、堀り起こされた畑の中から、貧しかった村人を満たすには、余りある程の、たくさんの、本当にたくさんのジャガタラが掘り出され、いつしか村人の怒りや恨みつらみは、感謝の念に変わって行ったのでした。
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