お前だけ/木葉 揺
「もうこんな時間」とは
やることのない人の台詞ではない
それでも流れるものは流れる
誰も私に期待してないから
近所のレトリーバーにお願いして
遊んでもらっていたのだ
やることがないのは
うらやましがられる割には
憐れみも降りかかってくる
犬はどうしたら良いかわかってるのに
うらはらとか矛盾とか表裏一体を知らない
だからひたすらフサフサと撫でていた
ただそれだけだ
ただそれだけなのに
体が柔らかくなり皮膚がぽっと温まる
だれが魔法の使える生き物をもたらした
しかもみじめったらしい自分にも
大会社の社長にも同じく優しい
私はお前に
何も与えることはできないんだよ
なんか知ってる人間
というだけで
今日の私をずっと救ってくれたのだ
いつかお礼をせねば
あ
お礼なんてしない方が
飼い主さんに迷惑かけなくていいな
飼い主さんの幸せが
お前の幸せなんだもんな
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