微熱の海/橘あまね
 
わたしをくるむあなたの器官を
海と呼んでみようと思う
なまあたたかい夜の渚に
白く浮かび上がるのは
何の兆候なんだろう

わたしは魚になってくるまれる
鱗のない最初の魚
満ちて、引いて
また満ちて
静かに運ばれていく深みで
呼吸を忘れてしまう
はんぶんの月

あたたかさはどこから来るの
昼のあいだに
こっそり貯えてあったの

たくさんの泡が
消え残って
星空みたい
散りばめたのはちいさな願いだから
そっとしみこんでいけばいい
満ちて、欠けて
また満ちて

遠いむかしの
始まったばかりの
赤っぽい夜の渚に
輪郭が生まれる前の細胞たちを
置き忘れてきたみたいだ
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