吟遊詩人/非在の虹
 
パウンドは「アルタフォルト」で、中世プロバンス、アルタフォルトの城主ベルトラン・ド・ボラン卿の誠に血の気の多い性格を実に生き生きと描写しているが、私が興味を持ったのは、ボラン卿の逆鱗に触れる事なく、無事に!生涯を終えた吟遊詩人のパピオルという人物だ。
彼は何者であろうか?

私は偶然にパピオルの事績に巡り合った。
それはマニエリスムの画家、ロッソ・フィオレンティーノの1550年版作品目録である。
目録作者は次のように述べている。

『「中世ではしばしば吟遊詩人の虐殺が行われた。
吟遊詩人の言葉は「水鏡より真実を語り、オウムより虚偽を述べる」とされたからである。
しかしこの事実は吟遊詩人の言葉を後代に書き記した文献から判ったのであり、とすると、「吟遊詩人の虐殺」そのものが詩人による捏造ではないか、という疑問も残る。
ことほど左様に詩人は「オウムより虚偽を述べる」のであるが、問題は何故虐殺か、であろう。

おそらく殺されたくない者は、殺される前に、殺されたと言いふらす事が最善であるのを知っているのだ。』
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