詩の日めくり 二〇一六年七月一日─三十一日/田中宏輔
分だからこそかな
その深い淵にはね
近づこうとすると
遠回りをさせて
その淵から引き離そうとさせる力が自分のなかに存在してね
無理に近づこうとすると
しばしば躓いてしまって
まったく違った場所を淵だと思ったり
ひどいときには
あやまった場所で
二度と立ち上がれなくなったりするんよ
もしかすると
他人の方が近くに寄れるのかもしれないけれど
でもね
その近さってのは
ほんのわずかのものでね
淵からすれば
ぜんぜん近くなってないのね
ひとがいくら近いと思っても
そうじゃないってわけ
人間自体が一つの深淵である
二〇一六年七月三日 「朗読会」
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