雨に沈む/橘あまね
 
ざあざあと傘が泣いてる
交差点に人はまばら
忘れ物をしたようで振り向いたら
世界はどこにも無かった

息苦しさがどこから来るか
白く塗りつぶされる前に
見つけられたらいいのに
ぼくは錠剤に逃げ込んでしまう

つぶれたデパートやら
置き忘れられた領域に
雨水はどんどん溜まっていく
あふれたぶんは誰も覚えてない

真っ白に変わってしまって
空へ膨らんでいく痛みを
新しい世界と呼びたくないけど
ぼくは塗りつぶされた画用紙みたい
もう余地がないのだ

交差点に人はまばら
傘も泣きやまない
この雨音は永遠に続いて
ぼくは
置き忘れられて
白く塗りつぶされて
新しい世界という
使い慣れた言葉に
きっと
埋められてしまうんだろう
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