漢検2級を取ったことがある/道草次郎
 
昔、17の頃
漢検2級を取ったことがある
余命わずかの父は
送られてきた賞状を
額に入れ壁に飾った

ぼくはすこし嫌な気がしたけど
今そのことがふと思い出され
父の心がスっと入ってきた気がして
すこし
なく

いま
履歴書を書いている
父は
ぼくの知っている限りで
もっとも博識な人で
たぶん
ぼくに似た精神の持ち主だった

ぼくの履歴書は
完璧にごちゃごちゃとしている
いっぽう父は高卒以来
出版社一筋の人
休みの日は
休みもせずにりんごとぶどうをやっていた

父は若くして死んだが
ぼくが生きる限り
父の成せなかった幾つかのことが
ぼくという器をつかうだろう

それが
春風のように
世にトポトポと零れることを
ぼくは
昔から知っているような気がする



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