幻視/タオル
 
しが夜だ
こんや、嵐が来ればいい

・・・・・・
こんやがその風、春のにおいをかぐために
わたしはちいさい窓を開けたのだった。

暗やみのなかをただようさくら。
白くてむやみにちいさくて、
生まれてから一度も何かに逆らったことなどない
無抵抗のさくらばな。
風に乗る・乗せられる・何度でもただよう。

夜はわたしだ、わたしが夜だ、
──まずしさのあまり、ほぼ完全に気狂いの様相になった王様のもとには
吹きだまり。さくらの吹きだまり。
古いマントを覆うよにさくらの鱗がびっしりとはりつく。



─みみのないわたしたちのみみはそんな夜を視るのです。


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