オムレツ/やまうちあつし
明後日の風が
薄い緑に見えるのは
わたしに宿る
かすれた色眼鏡のせい
閉店の知らせばかり舞い込む
メールボックスには
この世でたったひとつの
返信が届かない
山羊の顔して探すだろう
失われた言葉の続きを
記憶の片隅で
さっぱり色褪せることがない
橙色の王国の痕跡を
信者はいまだ行方不明で
祈りと呪いがこんがらがって
オムレツは冷めてしまった
一番鶏に産ませたものを
かじかんだ手でくすねてきたのに
(あの涙目が忘れられない)
それでも春はやって来る
どうかわたしの前でだけ
マスクを外して
そのことで
たとえ何かに感染しても
後悔はしない
いやむしろ
後悔したい
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