SPRING/星染
あなたの匂いをもう憶えていません
この部屋で暮らしてよかったと思ったことなどいちどもない
曇り空 ぬるい暖房 春の光はこんなもの
伸びた爪で嵐をとめて
伏せたまま口づけてじゃれあっていた朝
世界が滅んでも知らなかった
あなたと永遠にまちがえて生きていた
薄くなった足の甲に
蒸せる部屋の濁った呼気に
春をみている、汚くとも愛せるはずのくだらない夢を
きれいな言葉もそれらしい響きも、
かき抱いた腕から零したものも軽蔑していた硝子の玉も、
あなたの内側にあったのです
皮膚の下の組織と同じように脈打って!
眠るまでそばにいてくれませんか
そのくらいの赦しでわたしは笑って地獄にゆけます
こどものまま死ねなくてごめんなさい
透明な地面に横たわっている
触れられない季節の静脈に
衝立越しにでも会いたがっている
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