詩の日めくり 二〇一五年十月一日─三十一日/田中宏輔
 
すらも憶えていることができないのだけれど、千の記憶は、すべてのぼくを憶えている。すべてを記憶することが記憶の仕事なのだ。ぼくというのは記憶のための道具でしかない。ペンのためのインクではない。インクのためのペンだ。

 自分を書き替えるほど簡単には、詩を書き替えることができない。ぼくはペンのためのインクであるときにも、インクのためのペンであるときにも、詩を書き替えることができなかった。一度書いた詩は、ぼくのすべての人生の軌跡を描いていたのであった。たとえ一篇の詩でも。一行の詩句であるときにも。

 ぼくのなかに閉じ込められた多数の詩句。ただ一つの詩句に閉じ込められた多数のぼく。そうだ。ただ一
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