夕焼けの記憶/道草次郎
あの日、ぼくは死期の近い人のそばにいた。基督教系のホスピスへ出入りし、ただその人の横に座っていた。モルヒネのせいで朦朧としたその人にとっての今は、50年前の初夏の昼下がりだった。そして、ホスピスは何十年も前に潰れた近所のタバコ屋だった。
何度か、燃えるような夕焼けを一緒に見た。病室の窓際の花瓶には梅の切り枝があり、ほんのりとその蕾を膨らまし始めていた。
長い、とても長い揺れが段々と事の深刻さを仄めかし始めた時、その人はベットの柵を強く掴んでいた。ずっと、耐えるように、揺れがおさまるまで静かに目を瞑っていた。揺れが落ち着くと、ぼくがその人に大丈夫かと訊いた。その人は大丈夫だという代わりに
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