廃線/入間しゅか
読んだはずなのに、どの小説も少ししか内容を思い出せなかった。
虹の絵。この虹はいつ見た虹だろうか。
ある日のこと、廃線を彼と二人で歩いた。朽ちた枕木に何度も躓きそうになりながら、僕は彼の背中を追った。廃線が分岐点に差し掛かった時、彼は立ち入り禁止と書かれた方を選んだ。フェンスの向こうは鬱蒼とした森。また戻って来るからよと言ってフェンスを乗り越え、悠然と木々をかけ分けて進む彼を僕は追うことができなかった。
いつ見たのか思い出せない虹の絵。
内容を忘れた小説が並ぶ本棚。
部屋は曖昧なもので散らかっている。
あの日、戻ってきた彼は何事もなく帰ろうと言った。元来た道を辿って帰る途中、帰りの風景は行きと違って見えるねと彼は言った。僕は頷いて振り返ったが、その時何を見たのか何も覚えていない。
虹の絵を眺めていたら、何かを忘れ去りながら歩いているんだと気付いた。
目の前に一本の廃線が伸びてる。
無人駅で先に待っている彼と、再び出会うことを僕はこっそりと誓った。
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