カナリヤ/道草次郎
 
その勇気が無いばかりに多くを失った。だが、その勇気の無さゆえに、また、新しい何かを見出そうとすらしている。はじめのうちそれは悪魔の囁きに似ていたが、やがては誘惑となって今身と心を締め付けている。

ぼくは、ぼくの原初を断ち切る刃物を持たない。その自負と欺瞞とが相変わらず、この少し古びた胸に堆積していて、今日という日をふたたび過去の方へと追いやってしまう。

ぼくはもう、ぼくという檻を見飽きた。

空ばかりが青い。空とはどんなところなのだろう。あの空へいったら、バラバラになってしまうんだろうか。そんなことが本当にあるのだろうか。

いま気付いた。いや、何度目かの気付きだ。
ぼくは籠のカナリヤなのだろう。歌はもとより知らなくて、そのくせ背戸の小藪に怯えるそんなあわれな一羽のカナリヤ。

ぼくは、実際、そのようなものに過ぎなかったのだ。


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