碑/妻咲邦香
 
名前がある
そこにある
私の名前だ
そこにある
指でなぞる
古い名前だ
何も覚えていない
美しい響きだ
長い間耳にしなかった

花を摘みに出掛けた
みんな何処かへ行ってしまった
私に優しくした人は
もう顔さえ思い出せない

名前がある
そこにある
水苔が光を放ち
生命だけが浮かび上がる
私の名前
そういう名前であったのか?
隣の妻に尋ねてみても
黙って静かに頷くばかり
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