藪椿イデア/あらい
私たちが雪原におちた明い椿を
やわらかなときに戻した時に
「あゝ 儚くも春の息吹」
生まれてしまった意義も値打ちも きっと
流された視界の端で 出逢うことであった。
かの君や さの方の 肩口に擦れた 触りだけの
陰陽の体裁を ひそか 潤わせる
縦彩も横色も紡がれない 薄明の絣り
ここであったというだけの、ものに成り立ち
「没する、今」
滂沱の川面に遮る、
我々の歳月は確かに みな同然育んで来たもの
この涙雨。
よすがの境界線を跨ぐ、
草臥れた男は腹這う、
そして従うは天を仰ぐ。
しかし なお
首をすげ替えようとわずかにも泳がせてい
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