古本屋来訪/道草次郎
 
ひさしぶりに古本屋にいき
古本をみてまわった
買う金がないのでおやじと話をした
ひさしぶりに人と話す
しかも本のことがわかる人と話すのは
何年ぶりだろう
数年前の岩波文庫の充実ぶりを褒め
クレジオかネーゲルをさがしているフリをする
おやじはジャズのレコードマニア
文学はまあまあ識ってる
以前来たときよりおやじ
ずいぶん老けたなあ
ひとしきり駅前通りの区画整理の話をし
紙の本の廃れに無難な相槌をうつ
「お客さん、20代?ああ30代ね。研究者さんかなにか?」
吹き出しそうになり思わず言ってしまう
「とんでもない。ただの労働者ですよ、しかも失業中の」
店を出て雪が溶けたばかりの
てらてらした道路をトボトボ歩く
そして
こころの中でこうつぶやく
(労働者?…ただの?…労働者。なんてこった。ああっ!なんてこった!)
雲間からはへんな明るさの陽ざし
今夜もまた
湿った重たい雪がふることだろう


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