風力発電/妻咲邦香
 
そこに風があって、寂しかったから鐘を鳴らした
大人になる少し前
悲しい鐘だと知らずに
もう元には戻せない
夢だと思っていたもの、現実だと思っていたもの
ポケットが破れてた
平気な顔してあの娘、泳いでる

手を繋ごう
僕たちは始めよう
誰かと同じ、僕もしくじった
救えなかった、自分さえも
教会から歌が消えて、結べなくなった糸の先
会いたかった、だから来たんだ
何を望んでも君は離れていくだろう
見た夢が幸せならばそれでいい

手を繋ごう
残せるものなんてない
この温もりを待つ誰か、今はいないけど
選んだたったひとつのやり方
間違いでも構わない、だから来たんだ
名前さえ無い
それなら何と呼んでもいい
街だと思っていたものが荒地に変わり
仮の姿にも真実が宿り
平気な顔してあの娘、泳いでる

「ありがとう」と「忘れない」の間にある
その場所に風が吹いて、深く息を吸った
一瞬心地好かった
ただそれだけ
平気な顔して君、泳いでる
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