染みの在処/妻咲邦香
 
一人旅を覚えたあの日
握り締めた切符の温もり
まだ掌に残っている
初めての出会い
在る筈だった身体の一部のように
再会を喜び、同じ血を通わせた

何処へ行くのも一緒だった
何を見ても、何を食べても
スタンプの赤いインクが親指を汚して
思わず拭った
まるで子供のように

生まれたばかりの心は風を知らない
何処かで誰かが見ている同じ景色
雲の形が教えてくれた
世界はもっと遠いと思っていた
美しいものは最初から汚れていた

鍵のかかった部屋の何処か
あの日の夢が今も眠っている
もう通わなくなった血が寝息を立てて
終わった夢を見ている
淡い恋が教えてくれた旅の方法
親指が消えない染みの在処を探し始める
いつか乾いた血の跡を子供のように拭き取って
地球はもっと赤いと信じていた

その日、切符を財布にしまった私は
ホームへの階段を駆け上がっていった
急ぎ足で
たくさんの人とすれ違いながら
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