ペイスリー/妻咲邦香
あなたみたいにゆっくり生きられたなら
そう呟きながら
その細い指先摘まんで額に押し当てる
ひんやりとした感触が
あなたの優しさなんだとわかる
私の指はどうやら幸せを掴むためじゃないみたい
お財布が見つからなくて
お昼ご飯の用意もう間に合わない
キッチンガーデンの片隅
露を弾くペイスリー
光を身体中浴びながら
そんなに不幸じゃないよと笑う
あなただって鳥のように歌えない
私だって真っ直ぐ愛を伝えられない
走れば電車にまだ間に合う
私には2本の足がある
行って来るよ
行って来なよ
ペイスリーのサラダは未完成だけれど
あなたとこうして話が出来て良かった
誰の心にも深い森があって
どんな種も時が満ちて芽吹く
私は幸運を待つ
薄っぺらな鞄と書類の束を抱えながら
名も無いあなたが風を待つように
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