十二の落首/道草次郎
ツンドラに三日月墜ちて小半日そろゝ窓も童話帯びしか
鍵盤に凭れし少年老いやすき高音探しに暮るゝ聖堂
魂は濡らさぬようにふところに忍ばせて来る冬の男ら
おもいでは至る所に散らばった死海文書の父の断片
寝台に寝つゝ想はむ居待ち月しらじらと山照らしをるかも
「一粒の麦死なずば」枕頭の灯火消すたび昇り来たらん
釦穴に常夜の風は吹き荒び鳥獲り遊ぶ男根崇拝
雨音を聴けばそれだけ人に降る雨の烈しさ胸に昏くて
澱み無くときには澱み流れゆく赤のせせらぎ我が腕にあり
火を前に無言千年貫けばしあわせ色のケヴァブいっぱい
てのひらをまあるくしてはほら海よ海よという子のまなこ泳ぐ魚
よどみなき良夜にかかる月光を浴びて立てるは獣のみにて
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