檻(掌編)/道草次郎
 
 その格子をみたことのある人は少ない。それは大気圏の上層にあることになっている。くぐもった神様の声が聞こてきて、天使たちはいそいそと持ち場を離れ始めた。どうやら格子のどこかが壊れていたらしい。大天使は羽ペン片手に下っ端の天使に何か命令している。こんなとき損な役回りはいつだって下っ端だ。じきにあちこちで流れ星をかき集める音がしだした。格子の壊れた部分には巨大なハンダが当てられ、溶接の火花が飛び散り夜空が美しい青白色に染まった。

 時を同じくして地上のとある動物園では、一騒動があった。一人のみすぼらしい中年男が夜の動物園に忍び込み、何かの動物の檻を無理やりにこじ開けようとしたのだ。当然男は宿直の
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