詠人のおもいで/道草次郎
ぼくはむかし介護士だった
昼食の介助
と言ってもどこにどんなおかずがあるとか
箸はここで飲み物はこっちです
とかの簡単な介助
をたまたま受け持った時のこと
Kさんは朗らかに話をしてくれた
奥さんのことや趣味の短歌のこと
Kさんは短歌の名人だった
いつも
素晴らしく味のある短歌を詠んだ
Kさんは5分ほど話してすぐ
こう言った
「道草さんはお若いのに人間ができてらっしゃるね。ほんの少し話しただけで分かりますよ」
ぼくはそれを聞いて
しどろもどろしてしまった
が
内心すこし得意だった
帰り際Kさんに挨拶をしにいくと
Kさんが耳打ちした
「道草さん、まわりは思ってるほどみんなあなたを見ていないよ。頑張って」
ぼくは立ち尽くすしかなかった
Kさんの白杖のカツカツいう音が
遠のいていく
Kさんは50歳で光を失ったのだ
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