卵化石/田中修子
 
の世界を、わたしは、毛皮を着て風にさまよい歩いた。あれ、さむかったなぁ、おなかも減るし、家族も仲間もじゃんじゃん死んでった。歩けなくなったおばあちゃんの遺体から、着古した毛皮を引っぺがして、からだに重ねて、歩いて行った。ちょっとまえ、七万年前くらいかな? でもいまおもえば、命がけで歩いた氷原は、けっこう綺麗な風景だった。夕暮れには、氷原は、赤く青く金に、どこまでもあてどなく、きらめいてね。月があがってね、ふっと息を飲んで、それきりだった。

--わたしたち家族は、人をかき分けてまわる。
それで、ある展示の、孵らないで化石になってしまった恐竜たちの卵、というのをみたら、胸が痛んだ。

あ、わたしたち、一億数千年ぶりに、邂逅したんだ。

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