団欒/道草次郎
 
だいぶ昔の話
家族みんなが待ちに待った鍋の時間だった
なんとなく付けたテレビの報道番組で
ボスニア紛争下での性的暴動に関する特集がたまたまやっていた

インタビューに答える女性のただならぬ眼差しに引き込まれ
気付くといつの間にか
チャンネルを変える機会を逸してしまった

それまでの陽気な雰囲気はどこへやら
どことなくみんなぎこちなくなり
鍋をよそうオタマがカチカチ当たる音と
皿をテーブルに置く時の音だけが聞える

誰もチャンネルを変えられない
誰もチャンネルを変えようとはしない
変えてしまっては
いけないような気がして

鍋は美味しい
でもなんだか美味しさ半減ですこし損したな
って
そんなことずっと思いながら

いつ終わるかな
いつ終わるかなと
ずっと思いながら黙々とみんな鍋を食べている

そんな夜もあったな

生きてるとそんな夜もあるよなあ

ときどき思い出したりして




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