零から始まる何ものもない/こたきひろし
おんなはおとこの子を身籠る
おとこはおんなを孕ませる
子はおんなの胎内で
その養分で育ちながら産まれるときを待つ
零から始まる何ものもない
生命もまた
零から始まってなどいない
命は命へと繋がれていく鎖
零から始まるものじゃない
導かれて彼は人に産まれた
そしていつの間にか少年になってそこに立っていた
そことは街なかの書店
彼は終始落ち着かなかった
自分でも挙動が不審になってないかと不安になりながら
反面、防犯カメラの位置など気にかけていなかった
そして誰にも気づかれないように素早く雑誌を一冊学生服の内側に隠した
心臓が破裂しそうだった
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